11月1日 (水)  やぎのこと

昨日は、上野動物園における動物の配置と、西園にある「こどもどうぶつえん」について書きました(ちょうど月が変わりましたので、きのうの日記を読むには、もうしわけありませんがいちど戻らなければなりません)。

「こどもどうぶつえん」において、入園者が自由に触れることができるのは実際にはやぎとひつじのみです。そのほかの動物、たとえば牛やろばなどは、係員が手綱をおさえているところをちょっとさわらせてもらう程度であり、かつ、参加資格は小学生以下に限られています。

こうしてみると、やぎとひつじは、こどもにとって安全な動物のように思われますが、お嬢さんにはどちらの動物にもあまりおもしろくない幼少のころの思い出があります。

お嬢さんの家では、むかしやぎを飼っていました。はじめの目的はお嬢さんの栄養補給であったらしいのですが、記憶にあるころにはもう目的はなくなっていたと思われます。

小屋の柵越しに餌を与えたり(やぎは枝豆のさやをよく食べます)、緑地の草を食べているやぎを見るのは楽しいものでしたが、もう少し親密になろうと近付いたある時、やぎはお嬢さんを角にひっかけて飛ばし、やぎの排泄物と泥水が混じった「すてきな」場所めがけて落としました。

汚辱にまみれた身体的な感覚と、起き上がろうとするお嬢さんを何度も飛ばしながらまったく変わらなかった表情、とりわけやさしそうな眼の記憶は、相俟って強い不条理感となって残っています。

いっぽう、お嬢さんの家から少し歩いた先にはひつじを飼っている家がありました。

品種によりますが、ひつじはやぎよりずっと大きくなりますので、飼育施設も本格的なものになります。その飼育小屋は二階建てになっており、冬の飼料となる乾燥牧草を二階にたくわえ、時間ごとに二階の床(一階の天井)の扉を上げて給餌ができるようになっていました。

ある日、もう少しひつじと親密になろうとしたお嬢さんは、乾燥牧草を外から運び込む搬入口から飼育小屋の二階に入り込みました。給餌口を上げて下に見えるひつじの背中にねらいを定め、そこからじょうずに下りればひつじに乗れると思ったのです。

うまくゆくかと思いましたが、ひつじは気配を察してじょうずにお嬢さんを避け、お嬢さんは小屋の中の羊の群れの中に落ちました。無断で小屋の中に入り込んだ手前、気付かれたり、助けてもらったりするわけにはゆきません。洋服を汚しながら柵を乗り越えた切迫感と、そんな時でもまったく変わらなかったひつじの表情、とりわけやぎと同じやさしそうな眼の記憶は、やはり強烈な不条理感として残っています。

やぎやひつじの四角い瞳には、不条理感を呼び起こすなにかの作用があるのかもしれません。

写真は、こどもどうぶつえんのやぎです。このやぎはまだこどもです。

20061101-1.jpg