6月14日 (水)  講演会のこと

何日か前の日記で「学ぶことに寄り添っていなさい」と大学生だったお嬢さんたちに説いて下さっていた先生が、ひさしぶりに学校で講演をして下さいました。

先生は日本の生まれではありません。遠い外国で哲学の研究をしておられたのですが、その国の体制に思うことがあり、また、その国も先生の考え方や行動に思うことがあって、ちょうどお嬢さんが生まれた年に、たいへん危険な思いをして日本に逃げてこられていたのです。

先生が、自分の生まれた国に戻ることができず、それでもお嬢さんたちにいろいろ貴いことを教えて下さっている間、さいわいなことにその国の体制は少しづつ変化してゆきました。そして、もう戻ってもだいじょうぶ、ということがわかった年の翌年の春に、先生は自分の生まれた国に戻ってゆかれました。その後、先生は、自分の生まれた国で学問を続けられ、また、日本とその国のあいだがよい関係でいられるよう、たくさんの行動をして下さいました。

講堂に入ると、思いがけず、何人かの同級生が席についていました。みんな、先生のお話を聴くためにやってきたのです。久しぶりにお会いした先生はとても元気そうで、あのころと変わらないあたたかく強い声でお話をして下さいました。

先生は、講演の冒頭にマイネッケのお話をして下さり、歴史学というものは、どんなに絶望的な状況や状態や意識のなかでも、いつでも希望を語るためにあるのですよ、とおっしゃいました。そして、このことは、自分の国に戻ることができないでいる間、ずっと考えていたことなのです、とおっしゃいました。

学ぶことに寄り添っていなさい、手を伸ばして待っていなさい、というのは、先生の日々の実感に裏打ちされていた言葉であったのです。

講演がおわって同級生と席についていると、先生が来て下さり、ひとりひとりの名前を呼んで握手をして下さいました。おしゃれな先生がいつも漂わせていたよい香りもそのままでした。

写真は、ハーバード大学の美術館の入り口にいたりすです。冬だったので食べ物がじゅうぶんではなかったのでしょうか、美術館の入り口のごみばこに出入りして、ドーナツのかけらやべーグルの切れ端をたべていました。心なしか眼に険があるように思われます。





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