2月4日 (日)  手計量のこと

お嬢さんと妹は、むかし共同でハムスターを飼っていました。

もうずいぶん昔、お嬢さんと妹が通っていた小学校の生徒が誘拐される事件がおこったことがありました。誘拐された生徒はすぐに解放され、犯人も検挙されましたが、そのおり、生徒が離さずかかえていたのがハムスターでした。

これに触発された妹が父に頼んだところ、父は栗毛色をしたつがいの大きなハムスターと、飼育用品一式を揃えて下さいました。「さくら」と「うめきち」と名付け、さっそく飼い始めました。

なんといいますか、当時はお嬢さんも妹も、家族計画のようなものには無頓着でした。つがいをいっしょに遊ばせていた結果、さくらは2度お産をしましたが、ちょうど寒い季節であったため、こどもが大きくなることはありませんでした。

家にやってきた時からおとなであったため、さくらは2年半ほどで、うめきちはそれでも4年近くを暮らし、地に還りました。

その後、金魚や小魚を飼うことはありましたが、数年のあいだは哺乳類不在の時代が続きました。そのあいだに、お嬢さんは大学に進み、妹もまた進学で郷里を離れました。

学業を終えて郷里で仕事につくにあたり、妹はハムスターの入った籠をふたつ抱いて帰郷してきました。ひとりぐらし先でこっそり飼っていたようです。こんどのハムスターは銀灰色のこじんまりした種類で、それぞれ、「ろくすけ」と「ななこ」という名前がついていました。

その翌年の夏、大学院から帰郷していたお嬢さんは、ひょんなことから家に猫を招き寄せてしまい、ハムスターと猫の同居がはじまりました(そのころ、ろくすけは地に還り、妹が飼っていたのはななこだけであったように思います)。ハムスターは籠に入って妹の部屋におり、妹の部屋はいつも扉を閉めておりましたので、猫の手にかかる可能性は低いものと思われました。

猫とハムスターの同居がはじまって4か月ほどたった初冬のこと、お嬢さんが大学院の授業から帰ってくると、部屋の留守番電話が点滅していました。

再生してみると、妹が泣きながらなにか訴えているようです。しゃくり声ばかりが聞こえて要領を得ないので家に電話をしてみると祖母が出て、猫が妹の部屋に入り込み、ななこを襲って食べてしまったことを知らせて下さいました。

「ぜんぶたべてしまえば、行方不明になったという説明がついたのだけれど、頭だけを食べ残しておいたので、妹の気付くところとなってしまった」と、祖母は説明して下さいました。

それ以来、お嬢さんも妹もハムスターをふたたび飼うことはありませんでした。

いっぽう、猫のほうはハムスターがたいへん好みに合っていたせいか、それから3回、どこからか大きなハムスターをくわえてきました。祖母が近所じゅうをたずねたのですが、ハムスターの出所はわかりませんでした。

悲しい記憶の多いハムスターですが、籠から出して掌に載せて遊んだおりのあたたかさとやわらかさは、今でも掌にきちんと残っています。

お嬢さんが、ものの重さや大きさのたとえにハムスターをよく使うのはそのためです。

写真は、文中で言及した猫です。まるくなってよく眠っております。この猫もだいぶん年をとりましたので、生き物を取ることはもうあまりしなくなりました。

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