Diary 2006. 6
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6月3日 (土)  枇杷のこと

先だってこしらえた枇杷の砂糖煮が、そろそろ食べられるようになりました。

砂糖煮は、果物ですし、火も通してありますので、せっかちな場合は冷えたらすぐ食べられるといえばいえますが、枇杷の砂糖煮はすこし特別です。

枇杷は上下を落とし、皮だけ手で剥いで砂糖煮にすることが肝要です。皮は、枇杷の実の先端から茎についているほうに向かって剥いでゆくと薄くきれいに取れます。種は抜いてはいけません。

理屈はよくわかりませんが、そうしてこしらえた枇杷の砂糖煮は、置くほどに杏仁の香りがまわったすばらしいものになります。種からなにか成分が析出されるのでしょうが、種だけ砂糖汁に漬けてもこの風味は出ません。数回ぶんの枇杷の砂糖煮を通した砂糖汁は、紅茶や牛乳に入れるよい甘味料になります。

お嬢さんは北の国で生まれ育ったので、はじめて東京にでてきたとき、枇杷や蜜柑が家々にあたりまえに実っていることにたまげました。また、それらを庭に植えていながら、収穫しないでほおっておく家が多いことにもたまげました。

そのようなわけで、この時期、雨でもないのに傘を持ち、それを逆手にかまえている謎の人を見かけたら、それはきっとお嬢さんです。といっても、見ずしらずの家の成り物を勝手に荒らすのはよくありませんので、そのようなふるまいはかろうじて学校の中だけにとどめています。

お嬢さんが大学院に通っていたころ、校地のすみで傘を逆手に枇杷の枝を引き寄せ、しめしめと実をもいでいると、指導教官が通りかかりました。

野生の枇杷は種が大きくおいしくないぞ、と仰る先生に、砂糖煮のことをお話し、種が大切なのですと説明すると、先生は感心された様子で、そういえば、ぼくの父は台湾製糖に勤めていたよ、というお話をして下さり、砂糖煮ができたらゼミナールの皆で食べようとお嬢さんを放免して下さいました。

それから少しして、先生は病を得て入院され、世を去ってしまわれました。先生に与えていただいたさいごの言葉が、「なっているからといっても、人の家の枇杷を勝手にとってはいけないよ。あと、傘は順手に持ちなさい」であったのは、笑ってよいのか哭いてよいことなのかわかりません。

先生が天に帰ってことしで十年になります。そして、また枇杷の季節がやってきます。

写真は、いとこの夫の博士学位取得パーティーに際して注文したケーキです。中身はチョコレート生地です。右側のPh.Tというのは、Put her husband through (彼女は夫を押し上げました)という意味なのだそうです。


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6月2日 (金)  アメリカ猫のこと

旅行がはじまって4日目のこと、お嬢さんは体調をくずしてホテルに置いてゆかれ、のこりの一行はシルバースプリング市からすこし離れたアーミッシュの村とアウトレットモールに出かけたことがありました。

お嬢さんは少々英語を話すので、ひとりで置いておいても生きてゆけるだろうとの見込みのようです。ホテルとモールのあいだは歩いても安全だから、すこし良くなったら外出して気晴らしでもしなさい、と、部屋の鍵を置いていって下さいました。

体調をくずした原因は食あたりで、その経緯については後述することがあるかと思いますが、あたった食べ物を身体から出し切ってしまうと、あとは水分を補給するだけで、体調はそのうち回復してきました。洗面をして着替えをし、午後からそろそろと外出です。

昨日の日記で書いたように、アメリカで宿泊していたホテルの近くにはショッピングモールがありました。ターゲットというスーパーマーケットでこまごました日用品や手軽なサプリメントを買い、いちど部屋に戻って荷物を置いたあと、こんどはスーパーフレッシュという食料品店に出かけ、イオンやビタミンを含む滋養飲料を買いました。

だいたい必要な買い物を済ませたあと、モールをぜんぶ見て歩くのもおもしろいだろう、と、お嬢さんはペットおよびペット用品の専門店に出かけてみることにしました。

その店には、ペットフードや散歩用品やあそび道具などが豊富に揃っておりましたが、子犬や子猫の姿はありませんでした。(のちほど、アメリカぐらしの長かった知人に伺ったところ、犬や猫は、店というよりブリーダーやシェルターで探すことが多いのだそうです)

かわりに、店には、事情があって飼うことができなくなった動物を展示して飼い主を募るコーナーがありました。コーナーのカレンダーを見ると、この週は猫の週のようです。

猫たちはめいめいがケージに入っており、めいめいのケージには、もとの飼い主もしくはお店の方もしくはシェルターの方が書いた紹介文が附されていました。旅に病んだ身にはなにか印象深かったので、思い出して下記に訳出しておくしだいです。

「ごきげんよう。ルーシーと申します。3才半になります。飼い主の方にアレルギー症状がおきるようになったので、こちらであたらしい家族をさがしていただいております。前の家族には赤ちゃんと子どもがおりましたので、赤ちゃんや子どもはだいすきで、きっと友達になれます。いたずらは決していたしません。わたしの見事な毛並みとタビー(全身が黒くて四肢の先が白い配色)の色合いをごらんください。あなたのお宅のリビングや暖炉のまわりをよりゴージャスにいたします。あたらしい家族にしていただけますことを心より願っております。ワクチン済み。ごはんはヒルズです。」

お店の猫を写真に撮るのはよくないと思いましたので、ルーシーの写真はありません。この写真は猫の山里の猫です。よく見ると子猫に乳をやっているところです。猫の山里の猫たちは共同で子育てをしており、子どものいないめす猫が乳母をすることがよくあります。目の青いこの猫も乳母猫でしょう。




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6月1日 (木)  モールのこと

昨日の日記で書いた体調の不良は、きょうの朝もおさまりませんでした。

そのため、きょうはお休みをさせていただいて家におり、ゆっくり家の片付けをしていました。シャツにアイロンをかけたり、お嬢さんのトランクに入れて帰ってきた母の荷物を郷里に送ったりするうち、乱雑であった室内がすこし片付きました。それだけでも、すこし心身が穏やかになった気分です。

今回、お嬢さんたちが滞在していたのは、ワシントンD.Cのとなり街にあたる、メリーランド州シルバースプリング市の滞在型ホテルでした。マリオットホテルの一系列の「レジデンス・イン」という名前で、今年の春先に開業したものです。

ホテルの1部屋は、クイーンサイズの寝台と洗面所をそなえたベッドルームが2つと、台所用品が完備されたダイニングルームで構成されていました。ダイニングルームのソファを引き出してベッドにすれば、最大で5名が宿泊できます。1部屋あたりの金額は、州税や宿泊税を加えると1日あたりおよそ260ドルほどだったでしょうか。メトロが近くを通っていないので、自動車を使わないとワシントンからのアクセスは困難ですが、国立公文書館カレッジパーク分館におそらく最も近い大手のホテルということで、書いておくしだいです。

ホテルでは朝食が提供されるほか、平日の夕方にはかんたんな夕食(ホットドッグとサラダ、とか、チーズマカロニとか、ミートボールとか)が提供されます。また、お向かいにはスーパーマーケットやレストランを含むちいさなショッピングモールがあり、自分で好きなものをこしらえていただくこともできました。日本食も少々おいてあります。

滞在の後半、家族に思わぬアクシデントが発生したおりには、このショッピングモールが活躍することになりました。

写真は、いとこの夫の学位授与パーティのために、モントリオールに住むいとこの夫のおばがこしらえて持ってきて下さったパイです。赤く見えるのは、リューバーブという酸味のある蕗の茎のような植物と、保存しておいた桃でこしらえたパイのなかみです。

いとこの夫のおばはたいへん料理が得意で、レストランを開いたり、レシピブックを出版したりしておられるとのことでした。

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