ボエティウス『音楽教程』第2巻 12〜20章:要約とコメント

第12章 〈算術中項〉〈幾何中項〉〈調和中項〉について

中項 medietas について述べる.

比 proportio とは二つの項の互いに対するある種の対比である.

数の実体を項と呼ぶ.

比例 proportionalitas とは等しい比の集まりである. 比例は最小でも3つの項からなる. 第二項に対する第一項が,第三項に対する第二項と同じ比を持つとき,比例とよばれ,第二項が三つの項の中項である.

つまり最小の比例は三つの項からなる $a:b:c$ で $a:b=b:c$ であるもの. これが本来の比例だが,これ以外のものも比例と呼ぶことがある.

$1,2,3$ のように隣り合う二項の差が一定の比例を〈算術比例〉と呼ぶ.その中項を〈算術中項〉という. このとき隣り合う二項の比は一定ではない.

$1,2,4$ のように隣り合う二項の比が一定の比例を〈幾何比例〉と呼ぶ.その中項を〈幾何中項〉という. これが本来の比例である.隣り合う二項の差は一定ではない.

$3,4,6$ のように,第一,二項の差と第二,三項の差の比が,第一,三項の比に等しい比例を〈調和比例〉と呼ぶ.その中項を〈調和中項〉という. つまり $(4-3):(6-4)=3:6$ ということ.

算術
123
  
幾何
124
  
調和
346

$a:x:b$ という比例において,それぞれの種類の中項 $x$ は次のように与えられる.

〈算術中項〉$\displaystyle a:\frac{a+b}2:b$
〈幾何中項〉$\displaystyle a:\sqrt{ab}:b$
〈調和中項〉$\displaystyle a:\frac{2ab}{a+b}:b$

〈算術中項〉は $b-x=x-a$ を解けば $x=\displaystyle\frac{a+b}2$ として得られる.

〈幾何中項〉は $a:x=x:b$ より $x^2=ab$ なので $x=\sqrt{ab}$.

〈調和中項〉は $x-a:b-x=a:b$ より $a(b-x)=(x-a)b$. これを解いて $x=\displaystyle\frac{2ab}{a+b} $.

〈調和中項〉は $a$, $b$ の逆数の平均の逆数としても求められる. \[ \frac1x = \frac12\left(\frac1a+\frac1b\right) \]

第13章 連続する中項と隔てられた中項について

比例には,連続する比例と隔てられた比例がある.

前章のようなものが連続する比例である.一つの中項がより大きな数の下におかれ,またより小さな数の上におかれる.(前のものとの関係と後続するものとの関係が等しい.)

中項が二つの次のような比例は分離された比例と言われる:$1,2,3,6$. この例では $1:2=3:6$ が成り立っている.

連続する比例は最小3項が可能だが,分離した比例は最低4項必要である.

4項以上の連続する比例はありうる.例えば $1,2,4,8,16$.

第14章 前掲の配置となる中項はなぜこのように呼ばれるのか

ある中項が〈算術中項〉と呼ばれるのは,続く項の間の差が均等であるからである. 〈幾何中項〉と言われるのは,比の性質が同様であるからである. 〈調和中項〉と呼ばれるのは,差の間の比と(両端の)項の間の比が等しいように,結合されているからである.

第15章 どのようにして前述の諸中項が均等性から生じるのか

数において〈単位一〉が優位に立つのと同じく,比例において均等性が優位に立つ. 数の源が〈単位一〉であるように,比例の始まりは均等性である.

〈算術中項〉の生成の仕方.均等な三項 ($a_1=a_2=a_3$) が与えられたとする.

111
123
  
222
246
  
333
369
  
$a_1$ $a_2$$a_3$
$a_1$$a_1+a_2$$a_1+a_2+a_3$
  
111
234
  
222
468
  
333
6912
  
$a_1$ $a_2$$a_3$
$a_1+a_2$$a_1+2a_2$$a_1+2a_2+a_3$
  

〈幾何中項〉の生成の仕方は第7章で説明された.

〈調和中項〉の生成の仕方.均等な三項 ($a_1=a_2=a_3$) が与えられたとする. 〈二倍比〉を形成したければ次の通り.

111
346
  
222
6812
  
333
91218
  
$a_1$ $a_2$$a_3$
$a_1+2a_2$$2a_1+2a_2$$a_1+2a_2+3a_3$
  

〈三倍比〉を形成したければ次の通り.

111
236
  
222
4612
  
333
6918
  
$a_1$ $a_2$$a_3$
$a_1+a_2$$a_1+2a_2$$a_1+2a_2+3a_3$
  

※この章の比例の構成は ad hoc に見え,あまり説得力があるようには思えません.

第16章 調和中項とそのより十全な考察について

$3,4,6$ の〈調和比例〉では $3:4$ が4度,$4:6$ が5度,$3:6$ がオクターブであり,全体として 4度+5度=オクターヴ をなす.

$3,4,6$ のそれぞれに $3,4,6$ をかけると,$9,12,16,18,24,36$ が得られ,これは全体で2オクターヴの配置をなす.

この配置には,4度 $12:9$, $16:12$, $24:18$, 5度 $18:12$, $24:16$, $36:24$, オクターヴ $18:9$, $36:18$ オクターヴ+5度 $36:12$, 2オクターヴ $36:9$, 全音 $18:16$ が含まれる.

第17章 いかにして前述の中項は二つの項の間で順に置かれるか

$10$ と $40$ の間の〈算術中項〉は $25$ で, $40-10$ の半分の $15$ を $10$ に足すと得られる: $10,25,40$.

つまり $a,b$ の〈算術中項〉は $\displaystyle \frac{b-a}2+a = \frac{a+b}2$.

$10$ と $40$ の間の〈幾何中項〉は $40\times 10=400$ が平方となる $20$ である: $10,20,40$.

つまり $a,b$ の〈幾何中項〉は $\sqrt{ab}$.

$10$ と $40$ の間の〈調和中項〉は, まず $10$ と $40$ を足して $50$. $40$ から $10$ を引いて $30$. これに $10$ をかけて $300$. これを $50$ でわると $6$. 最後に $6$ に $10$ を足した $16$ が $10$ と $40$ の間の〈調和中項〉である: $10,16,40$.

つまり $a,b$ の〈調和中項〉は $\displaystyle\frac{a(b-a)}{a+b}+a =\frac{2ab}{a+b}$.

第18章 ニコマコスによる協和の価値のあり方

より明瞭に感覚がその特性を理解する協和が,第一かつもっとも快い協和に据えられるべきである. 二倍にある協和が他のなにより馴染みがあるのなら,オクターヴの協和がすべての中で第一であり,また価値という点で優っている.なぜなら,それは認識によって先んじているのだから.

ピュタゴラス派の人々にしたがえば,残りのものは必然的に倍数の増大と〈単部分超過比〉の状態の減少が与える序列を持つ.

$1,2,3,4$ の組み合わせから得られるのは,$2:1=4:2$ (オクターブ), $3:1$ (オクターヴ+5度), $4:1$ (2オクターヴ), $3:2$(5度), $4:3$(4度).

ニコマコスによる協和の序列は以下のようである.

1.〈二倍比〉オクターヴ
2.〈三倍比〉オクターヴ+5度
3.〈四倍比〉2オクターヴ
4.〈$2$ の単部分超過比〉5度
5.〈$3$ の単部分超過比〉4度

第19章 協和の序列に関するエウクレイデスとヒッパソスの見解

エウクレイデスとヒッパソスは協和の別の序列を置く. 彼らは,確固とした序列によって〈多倍比〉の増大が単部分超過比の減少に対応することを主張する.

二倍に対し 1/2 が,三倍に対し 1/3 が対応する.

二倍があればオクターヴの協和が生じ,1/2 があればそれからいわば逆の分割の〈$2$ の単部分超過比〉すなわち5度がもたらされる. これらが組み合わされると,すなわちオクターヴ+5度は三倍を引き起こし,これは両方の協和を含む. 三倍に対する 1/3 から逆の分割の〈$3$ の単部分超過比〉すなわち4度が生じる. 三倍と〈$3$ の単部分超過比〉が組み合わされると,四倍を生じる. したがってオクターヴ+5度と4度が結合されると〈四倍比〉の2オクターヴとなる.

以上より,次のような序列となる:オクターヴ,5度,オクターヴ+5度,4度,2オクターヴ.

※なぜ 1/2, 1/3 に対応する「逆の分割」がそれぞれ〈$2$ の単部分超過比〉〈$3$ の単部分超過比〉なのか,原文からは判然としませんが,次のことを表しているのかもしれません. \[ 3:2 = \left(1+\frac12\right) :1,\qquad 4:3 =\left(1+\frac13\right):1 \]

第20章 いかなる協和がいかなる協和に対置されるのかに関するニコマコスの見解

しかしニコマコスは,逆のものの対置が協和の序列と同じとは考えていない. 〈単位一〉が算術における増加と減少の源であったように,オクターヴが残りのものたちの協和の源であり,残りのものたちは反対の分割において構成されうると考えている.

数の場合,まず〈単位一〉が置かれ,増大の方向と分割の方向の二つの方向に広がる.

1
1/2 2 
1/3 3 
1/4 4 
1/5 5 

同じことを協和にあてはめると,最上の源の位置にオクターヴを置き,残りのものは反対の分割において次のようになる:三倍に対して〈$2$ の単部分超過比〉,四倍に対して〈$3$ の単部分超過比〉.

オクターブ
オクターヴ
+5度
  5度
2オクターヴ  4度
      
$2:1$
$3:1$ $3:2$
$4:1$$4:3$

※協和における「反対の分割」が意味するものは原文からは判然としませんが,次のようなことを言っているのかもしれません.

$2:1$
  
$2:1$
$3:1$
   
$3:2$
$4:1$
    
$4:3$

ニコマコスの述べるところは上の図式のようにオクターヴが諸協和の源であるが,それでも〈多倍比〉の方が優れたものであり,〈単部分超過比〉はそれに続く. (したがって第18章の序列となる.)

第2巻 21章にすすむ 

First submitted:02/17/2024