フィリポクトゥス・デ・カゼルタ (Philipoctus de Caserta, fl 1370)は Chantilly 写本や Modena 写本に8曲のフランス語の世俗歌曲を残しています。
Philipoctus は音楽理論家としても活躍していたようです。 Philipoctus が1365年頃に書いた論文 Tractus de diversis figuris (様々なフィグラに関する論考)のなかに次のような一節があります。 「今やわれわれは、巨匠たちによって放棄された諸原理を理解しており、 研究することでさらに緻密な(Subtilis)手法に達した。 その結果、前の世代の人たちによって不完全なものとして置き去りにされた技法が、 われわれの世代の作曲家たちの手で改良されることになるのである。」 音楽学者ウルスラ・ギュンターはこの一節から Subtilis という語をとって この時代の音楽様式を Ars Subtilior と名付けたそうです。
Philipoctus の音楽様式は Ars Subtilior に典型的なものと言えると思います。
- En remirant (ballade)
- Ars Subtilior のお手本のような曲です。 シンコペーションや多彩なリズムを施された Superius、しばしば二連符の動きになって クロスリズムを形成する Contra など細部にこだわる性格が随所に見てとれます。
- De ma dolour (ballade)
- Ars Subtilior 的にはややおとなしめの曲です。 B パート後半に Contra に現れる二連符の "broken third" のパッセージは、 Philipoctus に特徴的なものだそうです。
- En atendant soufrir (ballade)
- 作者が Modena codex では Philipocutus、Chantilly codex では Galiot となっている曲です。 ここでは Philipocutus の所に含めておきます。