ケルンのフランコ著『計量音楽論』第三章、第四章

●第三章

Capitulum 3: De modis cuiuslibet discantus.

第三章:全てのディスカントゥスのモドゥスについて

注釈:ここで言うモドゥス modus とはノートルダム楽派で確立されたリズム・モードのことです。リズムに関する具体的な議論の最初がリズム・モードであるというのは私には興味深いことに思われます。実際、このころモテトなどのテノール声部はほぼ完全にリズム・モードの支配下にあると言えると思いますし、自由に動くかに見える上の声部もよくよく見てみると潜在的にその骨格はどれかのモードである(普通はテノールと一致する?)ことが多いようです。また、第九章では「モドゥスを判定すること」について言及されています。

Modus est cognitio soni longis brevibusque temporibus mensurati. Modi autem a diversis diversimode enumerantur et etiam ordinantur. Quidam enim ponunt sex, alii septem. Nos autem quinque tantum ponimus, quia ad hos quinque omnes alii reducuntur.

モドゥス modus とは長短のテンプスによって計られた音 sonus の概念である。また、モドゥスは様々な人々によって、数えあげられ、 順序付けられている。実に、あるものは六つとし、他のものは七つとしている。しかし、われわれは、五つだけだとする。なぜなら、他の全てはこれら五つに還元されるからである。

Primus enim procedit ex omnibus longis, et sub isto reponimus illum qui est ex longa et brevi duabus de causis. Prima est quia isti duo in similibus pausationibus uniuntur*1; secunda est propter antiquorum et aliquorum modernorum controversiam compescendam. Secundus procedit ex brevi et longa. Tertius autem ex longa et duabus brevibus. Quartus ex duabus brevibus et longa. Quintus ex omnibus brevibus et semibrevibus.

第一のモドゥスは、実に、全てロンガで進行するが、われわれはこれを、二つの理由によりロンガとブレヴィスで代用する。第一の理由は、同種の休止を持つ点でこの二つは統一される*1からである;第二の理由は、昔の人々と現代の人々の間の議論を終結させるためである。第二のモドゥスは、ブレヴィスとロンガで進む。一方、第三のモドゥスは、ロンガと二つのブレヴィスで進む。第四モドゥスは、二つのブレヴィスとロンガで進む。第五モドゥスは全てブレヴィスとセミブレヴィスで進む。

補足:ノートルダム楽派(以降)のオルガヌムなどにおけるリズム・モードの種類は、六種とするのが現代のスタンダードではないかと思います。また、これは[Garlandia]の記述などから取られたものでしょう。これによると、ロンガを L、ブレヴィスを B として、第一:L-B-L-B-..., 第二:B-L-B-L-..., 第三:L-B-B-L-B-B..., 第四:B-B-L-B-B-L..., 第五:L-L-L-L..., 第六:B-B-B-B-B-B..., となります。フランコはここで第一と第五をまとめていることになります。これは、13世紀のモテトゥスのテノール声部において、(L-B-L), (L-L), (L-B-L), (L-L),...のようなリズムがしばしば見られることを鑑みると、自然なことと理解できるかもしれません。あるいは、[Source]によると、フランコがよりなじみのある六種のモードから離れたことに関して、"He(Franco) does so by combining the first and fifth modes into one, with the first mode in the upper voice and the fifth in the tenor" と言っています。

註:
*1 isti duo in similibus pausationibus uniuntur / 同様の休止を持つ点でこの二つは統一される
この一文だけ見ると意味が判然としませんが、休止に関する第九章の記述では、「第一モドゥスの休止は、レクタ・ブレヴィスか完全ロンガである」と言っているので、この二つのモドゥスは共通の休止を持つという意味で、訳文のようになるのではないかと思われます。(釈然としないものは残りますが…。)また、[Minagawa]では、「両者は同じ種類の休止を共有する」と訳してあり、[Source]では、"the same rests are common to the both." となっています。 [Back]

Cum autem istorum modorum voces sint causa et principium et earum notae sint nota,*1 manifestum est quod de notis vel figuris,*2 quod idem est, est tractandum. Sed cum ipse discantus tam voce recta quam eius contrario, hoc est voce amissa,*3 reguletur, et ista sint diversa, horum erunt diversa signa, quia diversorum diversa sunt signa. Sed cum prius sit vox recta quam amissa, quoniam habitus praecedit privationem,*4 prius dicendum est de figuris, quae vocem rectam significant, quam de pausis quae amissam.

しかしながら、これらのモドゥスにとって音 vox は原因であり第一のものであり、それらの音符 notae はよく知られている*1ので、音符 nota またはフィグラ figura*2 ― それらは同一のものであるが ― について扱われるべきであることは明白である。しかしディスカントゥス自身は、真正な音と同様にそれの逆、これは無くされた音(無音)*3であるが、によって規定され、またそれらは異なるので、これらの記号は異なる記号であるだろう。なぜなら異なるものの記号は異なるからである。しかし、無音より真正の音が先行するので、というのはハビトゥス(有ること)は欠如に*4先立つので、まず真正の音を指し示すフィグラ figura について述べ、そのつぎに無音を示す休止(休符) pausa について述べることになる。

註:
*1 earum notae sint nota / それらの音符はよく知られている
原文を見ると一瞬なんのことかと思いますが、最初の notae は「記号、音符」を表す女声名詞 nota の主格複数で間違いないでしょう。二番目の nota はどう解釈しても整合性を欠きますが、「よく知られている、有名な」という意味の第一第二変化形容詞 notus, nota, notum の主格複数(但し中性!)と解しています。[Minagawa]では「それらの音の印が記号である」と、[Source]では "notes are the signs of sounds" と訳していて、二番目の nota も前述の女声名詞と解しているようです。 [Back]

*2 nota & figura / 音符、フィグラ
フランコ本人がこの二つは同じものを表すと言っているので両方「音符」のことだと思って間違いはないようですが、明確な差異はないのでしょうか?英訳では nota は note、figura は figure になるということ(確かに figura の意味は「形」です)なので、figura には「音符」というよりその「形状」にニュアンスの力点が置かれているように感じるのは考えすぎでしょうか?この後 nota よりも figura の方が頻出するので、figura の訳語として「音符」をあてた方がわかりやすいのですが、この後もカタカナで「フィグラ」と書くと思います。多分。 [Back]

*3 vox recta & vox amissa
vox recta そして vox amissa は、例えば[Garlandia]の第一章にも出てくるような、中世の音楽用語のようです。英語に直訳すると vox recta = right voice, vox amissa = omitted voice のようになり、実際に鳴らされる音を vox recta、鳴らされない音(休止)を vox amissa と呼んでいることになります。でも上述の[Garlandia]には第三の vox cassa = hollow voice というのが出てくるのですが、意味がわかりません。誰か教えてください。 [Back]

*4 habitus praecedit privationem / ハビトゥス(有ること)は欠如に先立つ
habitus と privatio はどうも中世の哲学用語らしいです。(この種のことについては私はお手上げですね。)次は[Source]にある註です。"For the philosophical terms "habit" and "privation" see Richard McKeon, Selection from Medieval Philosophers, vol.2 (New York, Scribner's, 1930), Glossary." [Back]

第四章

Capitulum 4: De figuris sive signis cantus mensurabilis.

第四章:計量音楽のフィグラもしくは記号について

Figura est repraesentatio vocis in aliquo modorum ordinatae, per quod patet quod figurae significare debent modos, et non e converso, quemadmodum quidam posuerunt. Figurarum aliae simplices, aliae compositae. Compositae sunt ligaturae. Simplicium tres sunt species, scilicet longa, brevis et semibrevis. Quarum prima in tres dividitur: in longam perfectam, imperfectam et duplicem longam.

フィグラはあるモドゥスの秩序における音 vox の表現であり、このことからフィグラがモドゥスを表示するものであって、ある人たちが主張するように、その逆ではないことは明白である。フィグラのあるものは単純であり、他のものは複合的である。複合的なものはリガトゥーラである。単純なものは三種類ある。すなわちロンガ、ブレヴィス、セミブレヴィスである。第一のもの(ロンガ)は三つに分けられる:完全ロンガ longa perfecta、不完全ロンガ longa imperfecta、そして二重ロンガ longa duplexである。

Longa perfecta prima dicitur et principalis. Nam in ea omnes aliae includuntur, ad eam etiam omnes aliae reducuntur. Perfecta dicitur eo quod tribus temporibus mensuratur; est enim ternarius numerus inter numeros perfectissimus pro eo quod a summa trinitate, quae vera est et pura perfectio, nomen sumpsit. Cuius figuratio quadrangularis est, caudam habens in parte dextra descendentem, per quam repraesentat longitudinem, ut hic: [Longa].

完全ロンガは第一のもの、首位のものと呼ばれる。というのは、これに他の全てのものは含まれ、また、これに他の全てのものは還元されるからである。三つのテンプスで計られるものが完全と呼ばれる。三という数は、真実で純粋な完全である至上の聖三位一体から名を取っており、数の中で最も完全である。その形は四角形で、右側に下向きの符尾を持ち、そのことが長さを表わす。このように:[Longa].

Longa vero imperfecta sub figuratione perfectae duo tantum tempora significat. Imperfecta quidem pro tanto dicitur, quia sine adiutorio brevis praecedentis vel subsequentis nullatenus invenitur. Ex quo sequitur quod illi peccant qui eam rectam appellant, cum illud quod rectum est possit per se stare.

一方、不完全ロンガは完全ロンガの記号によって、テンプス二つ分だけを示す。不完全ロンガは、先行する、あるいは後続するブレヴィスの助けなしには決して現われないことから、こう呼ばれる。このことから、これをレクタ(真正な) recta と呼ぶ人は誤っていることが、したがう。なぜなら、それがレクタであるなら、それ自身で存在することができるからである。

Duplex longa sic: [Duplex] formata duas longas significat, quae idcirco in uno corpore duplicatur, ne series plani cantus sumpti in tenoribus disrumpatur.

このように [Duplex] 形成された二重ロンガは、テノルに置かれた単旋律聖歌のつながりが断絶させられてはいけないので、一つの形のなかで二倍化されている、二つのロンガを示す。

Brevis autem, licet in rectam et alteram brevem dividatur, quadrangularis tamen sine aliquo tractu pro utraque illarum figuratur sic: [Brevis].

一方、ブレヴィスは、レクタ recta とアルテラ altera のブレヴィスに分類されるけれども、それらのどちらも、線なしの四角形の形をしている。このように:[Brevis].

Semibrevis autem alia maior, alia minor dicitur; harum tamen quaelibet uniformiter ad modum losenge sic: [Semibrevis] formatur.

一方、セミブレヴィスは、一方はマヨル major、もう一方はミノル minor と呼ばれ、それらのどちらもが一様に、次のような: [Semibrevis] 菱形をしている。

次のページ


Last modified: 2006/9/2