Diary 2006. 3
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3月22日 (水)  去年の天使のこと

帰国してからだいぶんたつのですが、お嬢さんの身体の調子はあまりよくありません。日記も少しお休みしてしまいました。

ハーバード大学フォッグ美術館には、ちいさな売店が2つあります。フォッグ美術館の建物は漢字の「口」の形をしていて、下辺のまんなかが入場口だとすると、上辺のまんなかは特別展のためのスペースになっており、2つの売店は上辺の左右の階段の下にあります。

どちらの売店も、広さは畳2枚ほどでしょうか。品物を包むための台に場所をとる必要があるので、売店係の方がレジに立つと、一度に入れるお客さんは一人がやっとです。売店が2つあるのは、ひとつの売店からはみだしたお客さんを待たせないようにするためかもしれません。

昨年の春にフォッグ美術館を訪れたおり、お嬢さんは思うところがあって、売店の奥にあったちいさな木の像を買いました。年輪のつんだオリーブの木を刻んでこしらえた、背中に翼をつけた少女の像です。

この木の像は、手をあわせて祈るふたりの少女と、両手を前にさしだしているすこし年上の少女の三人で一組になっていたものでした。ですが、お嬢さんの財源では、三人をいっしょに連れて帰ることはできそうにありません。売店係の方に、ひとりだけでも売っていただけるでしょうか、とたずねたところ、売店係の方は、ええ、いいわ、と応じて下さり、そのようなわけで小さな木の像は、お嬢さんといっしょに日本に来ることになったのでした。

今回、ふたたびフォッグ美術館を訪れることができるようになった時、展示物をながめ終わってまっしぐらに向かったのは木の像のあった売店でした。

売店には、昨年とおなじ売店係の方がいらっしゃいました。ウォーホルのような髪型と風体の、とてもすてきなおばさまだったので憶えていたのです。

小さな売店なので、ひとまわり見渡せば品揃えはわかります。ですが、いくら見渡しても、昨年の木の像たちは見えません。売れてしまったのだと見当はついたのですが、思うところのあったお嬢さんはどうしてもあきらめることができませんでした。

「すみませんが、わたくし、昨年、こちらで木製の天使の像を求めた者であります。それを探しているのですが、ございますでしょうか。わたくし、おそらく、このために日本から来たのです」

売店係のおばさまは、こちらをじっとながめると、
「あの女の子のことですね。あの女の子は天使ではなく、名前がついていたのです。でも、ほんとうに申しわけないのですが、みんな売れてしまいました。あれはとてもよいものだったのですが」
とおっしゃいました。

それでもお嬢さんが帰らないでいると、おばさまは
「すこし待っていてちょうだい。電話をかけて、どこかにストックがないか聞いてあげる」というと、どこかに猛烈に電話をかけはじめました。そして、「返事が電話でくるからここで待っていなさい」とおっしゃいました。

ほかにお客さんが来ないので、おばさまと話をしていると(実際には、おばさまの質問にお嬢さんが拙く答えていただけです)、やはりストックはなかったという電話がかかってきました。お嬢さんが手伝いをしなければならない講演の時間も迫っていたので、それではこれで失礼いたしますと美術館を出たのですが、なにかとてもよい時間をすごすことができました。

三人にしてから、さしあげたい方のところにさしあげようと思っていた像は、そのようなわけでひとりのまま、さしあげたい方のところに出かけてゆきました。安着のお知らせをいただいたので、書いておくしだいです。

写真は、フォッグ美術館の斜め前にあるファカルティクラブの入り口です。ファカルティクラブではランチをいただくことができますが、外観がすこし格調高いのと、入り口が小さく、かつ閉まっているので、気軽に出かけるにはすこし緊張するところです。






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3月15日 (水)  大学美術館のこと(つづき)

昨日の日記は、美術館の概観と周辺の昼食事情を書いたところでおわってしまいました。

ハーバード大学美術館は、ボストン美術館やメトロポリタン美術館などの大きな美術館と比較すると、たてものの規模も収蔵点数もちいさいですが、よいところも多くあります。

ひとつは、美術館に来ておられる人があまりいません。昨年も今年も、美術館にはひとりでうかがったのですが、展示室でひとりで作品を眺めることができました。

もうひとつは、いつも同じ作品が同じ場所に展示してあることです。アンジェリコの磔刑図も、ゴッホの最晩年の自画像も、ピカソの青の時代の大きな母子像も、昨年と同じ場所にありました。これは、この美術館が館外に作品を貸し出しすることがないためでもあります。

あとひとつは、美術館の方々がみんな親切であることです。このことについては、またのちほど述べようと思います。

美術館のコレクションの中で、お嬢さんがいちばん長い時間をすごしたのは、一階にあるルネサンス宗教絵画展示室の中にあるアンジェリコの磔刑図でした。イエスの後光をあらわす背景の金地の刻印や、十字架の上部に象徴として描かれている、自分の胸を觜で突いて血を流す白鳥の翼など、さまざまな部分がすべて端正に書き込まれており、前回も今回も、さいごはこの絵の前に戻ってきました。

この展示室は、サンティアゴ・デ・コンポステラ聖堂の柱頭飾りや石柱の一部が用いられており、天井の高さが他の展示室の二階ぶんの高さになっているなど、教会の会堂を想起させるつくりになっています。

二階の、ロセッティとアングルの作品群をおさめたウィンスロップ氏記念展示室とともに、とても好きな場所です。

写真は、昨日よい昼食場所として紹介したサイエンスセンターの入り口です。このようにわかりやすく建物名が表記されています。  

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3月14日 (火)  大学美術館のこと

3月8日の夕方に、ニューヨークから日本に戻ってきました。これから、旅行のあいだのことをすこしづつ書くことにします。

今回でかけてきたのは、昨年と同じハーバード大学のほか、ニューヨークにあるコロンビア大学です。それぞれの大学では先生の発表のお手伝いをし、それ以外の時間は、昨年訪れた研究所を再訪して知り合いになった方々と再会したり、美術館をながめたりしていました。

ハーバード大学では、昨年訪れた大学美術館を再び訪れました。
この美術館は大学の付属施設で、西洋の絵画を収蔵する美術館と、東洋の文物を収蔵する博物館と、近代以降の北欧の絵画や工芸デザインを収蔵するギャラリーの3つからできており、英語ではMUSEUMSと表記されています。

3つの館は中でつながっているので、いちど入場料を支払うと、3つの館をすべて見てまわることができます。入場料を支払うと、持ち帰りのできるちいさなバッジがいただけるので、それをつけていれば、同じ日のあいだに限り、ごはんやお茶のために中座することもできます(バッジは曜日で色がかわります)。

それぞれの館をゆっくり眺め、吹き抜けになった中央ホールのベンチですこし足を休め、中央ホールのつきあたりの特別展示をまわって、ちいさな売店をゆっくり眺めて、だいたい3時間と少しぐらいかかるでしょうか。朝10時の開館にあわせて中に入り、たっぷりすごすとだいたい遅いお昼の時間になります。

お昼の場所には、いくつかの選択肢があると思われます。

ハーバード大学は、創設当時の建物群がすかし模様の入った黒い柵で囲まれて他と区分されており、その区域内は「ヤード」と呼ばれています。
「ヤード」のいちばん端には地下鉄のハーバード駅があり、その反対の端にはメモリアルホールという、ハーバードの目印になるような高い塔があります。

大学美術館は、ハーバード駅を下辺、メモリアルホールを上辺においた正方形を頭にうかべた場合、右辺の中間ぐらいの柵にそって位置します。

美術館のななめ前の「ヤード」の中には、ファカルティクラブという大学の施設があり、お昼にはコースのほか、ブッフェをいただくことができます。少し料金が張りますが、なにか格式のある雰囲気があります。

ハーバード駅周辺には、いくつかのカフェのほか、中華料理店、ランチブッフェのあるインド料理店、いわゆる日本のコンビニエンスストアがあります。食べ物を買ってヤードの好きなところでいただくこともできます。

反対に、メモリアルホールの方向に進むと、メモリアルホールのとなりにサイエンスセンターという数学関係の学科の建物があります。サイエンスセンターの一階には広いカフェがあり、サラダやピザなどをめいめいがトレーにのせ、まとめて会計をしてもらうことができます。

学生の方々の出身地の比率のためでしょうか、サイエンスセンターのカフェには、生鮭を巻いたのり巻きやベトナム式生春巻き、インドネシア式炒麺などが売られています。タイ風の辛くて酸味のあるスープを選ぶこともできます。

店内の造作は学生さん向きですが、サイエンスセンターのカフェは、お値段や食事の種類からみてもよい感じです。

美術館のことを書きはじめたところ、なにか観光案内のようになってしまいました。
写真は、メモリアルホールのステンドグラスです。


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