ヨハネス・デ・ムリス著『計量音楽の書』論考一第六章(前半)

●論考一第六章(前半)

Capitulum sextum: De imperfectione maxime.

第六章:マクシマの不完全化について

※この章がこの論文の一番の核心であり、また、一番の難所でもあります。本文、譜例ともに不可解な部分がありますが、注意深く読めば言わんとすることはわかってくるものと思われます。

Maxima perfecta in toto et in partibus potest imperfici dupliciter videlicet, quoad totam et quoad partes. Quoad totam dupliciter, scilicet a parte ante et ex parte post. A parte ante, quando eam precedit sola longa.

完全なマクシマは、全体においてと部分においてと、二通りに不完全化されうる。すなわち、全体の quoad totam 不完全化と部分の quoad partes 不完全化である。 全体の不完全化は二通りである。すなわち前の部分から(の不完全化)と後ろの部分からである。前の部分からは、一つのロンガがそれに先行するときである。

A parta post, quando eam sequitur sola longa, vel quatuor, vel septem, vel decem longe, vel earum valor. Tunc prima longa vel ejus valor imperficit maximam precedentem, nisi propter punctum impediatur, ut hic:
[f010601]

後ろの部分から(の不完全化)は、一つのロンガ、もしくは四つ、七つ、十個のロンガ、もしくはそれと同じ音価が後続するときである。このとき、(マクシマの後の)最初のロンガ、もしくはそれと同等の音価は、先行するマクシマを不完全化する。プンクトゥスによって邪魔されないかぎり、このように:
[f010601]

Quoad partes etiam dupliciter, scilicet quoad partes propinquas, et quoad partes remotas. Pars propinqua alicujus totius est illa, in qua ipsum totum immediate dividitur; sic maximarum partes propinque sunt longe, longarum breves, brevium semibreves, etc. Partes remote sunt partes remote propinquarum.*1 Remotiores*2 sunt partes partium propinquarum.

部分の不完全化も二通りである。すなわち隣接部分の quoad partes propinquas 不完全化と、遠隔部分の quoad partes remotas 不完全化である。ある全体の隣接部分は、全体それ自身が次に分割されるところのものである。したがって、マクシマの隣接部分はロンガたち、ロンガの隣接部分はブレヴィスたち、ブレヴィスの隣接部分はセミブレヴィスたち、以下同様、である。遠隔部分は隣接部分の部分である。超遠隔部分*2は隣接部分の部分の部分である。

註:
*1 Partes remote sunt partes propinquarum.
[Coussmaker]では Partes remote sunt partes remote propinquarum. となっていて、これだと定義が無限ループに陥り意味不明になるので、[Venice]にしたがい後ろの remote を省きました。
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*2 Remotiores / 超遠隔部分
Remotiores (=より遠いものたち)を「超遠隔部分」なんて訳すのは、ちょっと大仰ですが、とりあえずこれで行っときます。
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Maxima igitur quoad partes propinquas potest imperfici dupliciter, scilicet a parte ante et a parte post, per abstractionem tertie partis cujuslibet valoris propinque partis, vel alterius earumdem.

このとき、マクシマは隣接部分が二通りに不完全化されうる。すなわち、前の部分からと後ろの部分から、隣接部分の音価の三分の一を、あるいはそれと同等な他のものを、分離することによってである。

Et sic similiter quoad partes remotas per abstractionem tertie partis, vel valoris cujuslibet partis remote, vel alterius earumdem, etc. Et ita suo modo potest intelligi de longis, brevibus et semibrevibus; exempla patebunt inferius.

また同様に、(マクシマは、)遠隔部分の音価の三分の一を、あるいはそれと同等な他のものを、分離することにより、遠隔部分が(不完全化されうる)。また、この方法により、ロンガ、ブレヴィス、セミブレヴィスについても理解されうる。例は下で与えられるだろう。

Et pro predictis nota has regulas infrascriptas,*1

前もって言っておくが、以下に記述する規則たちに注意せよ。

註:
*1 Et pro predictis nota has regulas infrascriptas:
[Coussmaker]では Et pro predictis et infrascriptis nota has regulas となってますが、[Venice][Florence]は上のようになっていて、こちらの方が意味が通るのでそのように直しました。でも、pro predictis の訳が上のようで良いのか自信がありません。
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Prima regula est, quod longa ante longam in modo perfecto semper est pefecta. Et brevis ante brevem in tempore perfecto semper est perfecta. Et semibrevis ante semibrevem in majori prolatione semper etiam est perfecta, ut hic:
[f010602]

第一の規則は、完全モドゥスにおいて、ロンガの前のロンガは常に完全であるということである。また、完全テンプスにおいて、ブレヴィスの前のブレヴィスは常に完全である。さらに、マヨル・プロラツィオにおいて、セミブレヴィスの前のセミブレヴィスは常に完全である。このように:
[f010602]

Secunda regula est, quod quandocunque aliqua nota debet imperfici, oportet quod eam immediate sequatur nota major vel minor in forma vel in pausa majoris vel minoris forme, quia similis ante similem non potest imperfici, ut hic:
[f010603]

第二の規則は、ある音符が不完全化されなければならないときはいつでも、より大きい、あるいはより小さい(音価の)音符または休符がそれに続かなくてはならないことである。なぜなら、同種のものの前の同種のものは不完全化しえないからである。このように:
[f010603]
[m010603]*1

註:
*1 譜例(現代譜)
ここでは、完全ロンガを現代譜の(9/8拍子の)一小節を対応させるという対応を用いています。これは、どちらかというとアルス・アンティカの曲の現代譜を作るときに用いるのに良い対応関係なのですが、原譜にマクシマが頻出しているのでこれを用いました。なのでミニマがかなり細かい音符になっています。後の方の譜例では、セミブレヴィスを一拍と考えブレヴィスを一小節に対応させるような対応を用います。そちらの対応の方がアルス・ノヴァの実際の曲については自然だと思われます。 [Back]

Tertia regula est quod quando post longam de modo perfecto sequuntur due breves vel tres, tamen nulla sola brevi precedente a qua possit imperfici, perfecta est, nisi punctus divisionis ponatur inter primam brevem et alteram, vel alias sequentes. Nam tunc prima brevis imperficit longam precedentem.

第三の規則は、完全モドゥスにおいて、ロンガの後に二つあるいは三つのブレヴィスが 続くときに、不完全化を引き起こすブレヴィスが先行しないなら、(ロンガは)完全である。 ただし、プンクトゥス・ディヴィジオニス(分割点) punctus divisionis が最初のブレヴィスと他のブレヴィス、あるいは他のブレヴィスたちとの間に置かれていないならば。 というのは、このとき、第一のブレヴィスは先行するロンガを不完全化するから。

Et idem est intelligendum de brevibus temporis perfecti respectu semibrevium et de semibrevibus majoris prolationis respectu minimarum, ut hic:
[f010604]

また、完全テンプスにおけるセミブレヴィスに対するブレヴィス、マヨル・プロラツィオにおけるミニマに対するセミブレヴィスも同様に理解されるべきである。このように:
[f010604]

Quarta regula est, quod quando inter duas longas remanet sola brevis perfectione computata, tunc illa imperficit primam longam scilicet precedentem nisi per punctum aut aliter impediatur. Et idem est de semibrevi inter breves et de minima inter semibreves, ut hic:
[f010605]

第四の規則は、二つのロンガの間に、完全と計算されている一つのブレヴィスがあるときに、それはもちろん先行する最初のロンガを不完全化する。 プンクトゥスあるいはその他のものによって遮られないかぎり。 また、ブレヴィスの間のセミブレヴィス、セミブレヴィスの間のミニマについても同様である。このように:
[f010605]
[m010605]*1

註:
*1 譜例(現代譜)
原譜の二段目の縦棒を無視すると「数が合う」ようなので、そう考えて現代譜を作ってあります。ここではセミブレヴィスを一拍(タクトゥス)と考え、ブレヴィスが9/8拍子の一小節に対応するように現代譜を作ってあります。 [Back]

Quinta regula est, quando sola nota debet reduci ad priorem locum quem potest habere, ut hic patet.*1
[f010606]

第五の規則は、単独音符が、それが持ちうる前の場所に還元されなければならないときである。ここに明白なように*1
[f010606]

註:
*1 Quinta regula est... / 第五の規則は...
この一文はこれだけ読んでも理解しにくいですし、譜例の方はもっと不可解ですが、後で出てくるシンコーパ(シンコペーション)について語っています。なので、ここではあまり深入りせずに先に進むことにします。 [Back]

Sexta regula est quod omnis nota, que imperficitur, imperficitur a propinquiori.*1 Exempla patent in exemplis regularum precedentium.

第六の規則は、不完全化される全ての音符は、より近くにあるものにより不完全化される*1。 例は先行する規則たちの例の中にある 。

註:
*1 Sexta regula est... / 第六の規則は...
ちょっと私にはわかりにくい一文ですが、おそらく「不完全化は、遠くの音符によって起こるのでなくて近くの音符によって起こる」ということが言いたいのだと思います。 [Back]

Septima regula est, quod quando inveniuntur due note simul sole, ille non debent partiri, sed simul computari, ut hic:
[f010607]

第七の規則は、単独音符が二つ同時に見出されるときに、それらは分離されるべきでなく、同時に合計される。このように:
[f010607]

Ulterius notandum est quod quando aliqua nota imperficitur a parte propinqua vel ejus valore, hoc fit respectu totius, sive quoad totum; si a parte remota, vel a partibus remotis, non tamen valentibus unam partem propinquam, hoc est quoad partem vel quoad partes.

さらに、ある音符が隣接部分によって、あるいはそれと同等の音価によって不完全化するとき、これは全体に関して、すなわち全体の quoad totum 不完全化であることに注意されたい。もし不完全化が、一つの遠隔部分によって、あるいは複数の遠隔部分によって起こっており、一つの隣接部分の音価によってでないなら、これは、一つの隣接部分の quoad parte または複数の隣接部分の quoad partes 不完全化である。

Item notandum quod quidquid imperficitur, vel quoad partes propinquas, a tertia parte imperficitur; ex quo sequitur quod quidquid est divisibile in tres partes equales*1, potest imperfici ab illa tertia parte; et quotiens dividi potest in tres partes equales, totiens potest imperfici ab illa tertia parte.

また、不完全化されるものは何であれ、(複数の)隣接部分の不完全化においてでも、三分の一の部分により不完全化されることに注意されたい。このことから、等しい三つの部分に分けられるものは何であれ、それの三分の一の部分によって不完全化されうることが従う。つまり、等しい三つの部分に分けられるだけ、それの三分に一の部分により不完全化されうる。

註:
*1 in tres partes inequales
[Coussmaker]で in tres partes inequalesとなっていて、これでは意味がおかしいので、他の資料にならい in tres partes equales に直しました。
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Et imperficiens potest preponi*1 vel postponi illi qui imperficitur juxta libitum ponentis, servata tamen hac regula, quod nulla nota potest imperfici ante sibi similem, sed bene ante minorem vel majorem, ut superius dictum est.

また、不完全化を引き起こすものは、ほとんど任意の位置に、不完全化されるものの前にも後にも置かれうるが、上で言ったように、どんな音符も同種の音符の前では不完全化されえないが、より小さいあるいはより大きい音符の前では良いという規則は守られる。

註:
*1 preponi
[Coussmaker]では subponi となっていて、他の資料では preponi となっています。preponi の方が postponi と対応するのでこれに直しました。
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Last modified: 2006/9/4