ヨハネス・デ・ムリス著『計量音楽の書』論考一第六章(後半)

●論考一第六章(後半)

Sequitur etiam ex premissis quod semibrevis prolationis majoris potest imperfici ab una minima precedente vel sequente, ut hic:
[f010608]

また、前に述べたことから、マヨル・プロラツィオのセミブレヴィスは、一つの先行する、あるいは後続する一つのミニマによって不完全化されうる。このように:
[f010608]
[m010608]

Brevis imperfecta minoris*1 prolationis non potest imperfici aliquo modo, quia non est divisibilis in tres partes equales.

ミノル・プロラツィオの不完全ブレヴィスはどのモドゥスにおいても不完全化されえない。なぜなら、等しい三つの部分に分割されえないからである。

註:
*1 minoris prolationis
[Coussmaker]では majoris plorationis となっていますが、それでは不完全化できてしまうので、[Florence], [Venice]に従い minoris に修正しました。
[Back]

Brevis imperfecta majoris prolationis potest imperfici ab una minima precedente vel sequente quoad partem unam et a duabus minimis et ad partes ambas, ut hic:
[f010609]*1

マヨル・プロラツィオの不完全ブレヴィスは先行するあるいは後続する一つのミニマによって、ひとつの部分において、また、二つのミニマによって、二つの部分において、不完全化されうる。このように:
[f010609]*1
[m010609]

註:
*1 譜例
ここの譜例は、[Venice]のものを用いました。 [Back]

Brevis pefecta minoris prolationis potest imperfici ab una semibrevi vel a duabus minimis; et hoc quoad totum, ut hic:
[f010610]

ミノル・プロラツィオの完全ブレヴィスは、一つのセミブレヴィスにより、あるいは二つのミニマにより不完全化されうる。これは全体の quoad totum 不完全化である。このように:
[f010610]
[m010610]

Et nota quod quidam cantores, scilicet Gulielmus de Mascandio,*1 et nonnulli alii imperficiunt brevem perfectam minoris prolationis ab una sola minima, et brevem imperfectam majoris prolationis a duabus minimis simul sequentibus vel precedentibus,*2 ut hic:
[f010611]

また、ある歌い手(カントール)たち、すなわちグリエルムス・デ・マスカンディオ*1と他の何人かの者たちは、ミノル・プロラツィオの完全ブレヴィスを一つの単独のミニマによって不完全化する。また、 マヨル・プロラツィオの不完全ブレヴィスを先行あるいは後続する連続した二つのミニマによって不完全化する*2。このように:
[f010611]
[m010611]

註:
*1 Gulielmus de Mascandio/グリエルムス・デ・マスカンディオ
おそらくギョーム・ド・マショー Guillaume de Machaut のことです。カタカナ表記はラテン語風にしてあります。 [Back]
*2 Et nota quod.../また、ある歌い手たち...
ここで言われている「不完全化」は理論上厳密な意味では不完全化とは呼べないものですが、本文にある通りマショーもしばしばこれを用いており、かなり一般的な abuse であったようです。 [Back]

Et dicunt illi ibi mutari qualitatem. Capiunt enim ibi brevem perfectam minoris prolationis ac si esset brevis imperfecta majoris prolationis, et e contrario brevem imperfectam majoris prolationis ac si esset brevis perfecta minoris prolationis.

また、彼らはこれをムータリ・クオリタース(クオリタースの変換)と呼ぶ。すなわち、ここで、(彼らは、)ミノル・プロラツィオの完全ブレヴィスをあたかもマヨル・プロラツィオの不完全ブレヴィスのようにとらえており、また逆に、マヨル・プロラツィオの不完全ブレヴィスをあたかもミノル・プロラツィオの完全ブレヴィスのようにとらえている。

Brevis perfecta majoris prolationis potest imperfici ab una sola minima precedente vel sequente, et hoc quoad unam ejus partem, et a duabus minimis una precedente et alia sequente, quoad duas partes, ut hic:
[f010612]

マヨル・プロラツィオの完全ブレヴィスは先行あるいは後続する一つの単独のミニマによって不完全化され得、これはそれの一つの部分においてである。また、二つのミニマで一つは先行しもう一つは後続するものによって不完全化され得、これは二つの部分においてである。このように:
[f010612]
[m010612]

Vel ambabus sequentibus vel precedentibus, ut hic:
[f010613]

あるいは先行する、または後続する二つによって、このように:
[f010613]
[m010613]

Vel a tribus minimis, vel earum valoribus quoad totum, ut hic:
[f010614]

あるいは三つのミニマ、またはそれと同等な音価によって、全体として、このように:
[f010614]
[m010614]

Et a quatuor minimis vel earum valore quoad totum et quoad unam partem, ut hic:
[f010615]

また四つのミニマ、あるいはそれと同等な音価によって、全体と一つの部分において、このように:
[f010615]
[m010615]

Et a quinque minimis vel earum valore quoad totum et ambas partes remanentes, ut hic:
[f010616]

また五つのミニマ、あるいはそれと同等の音価によって、全体と二つの残りの部分において、このように:
[f010616]
[m010616]

Et non potest plus imperfici, quia non remanet ei nisi valor brevis imperfecte minoris prolationis que brevis non potest imperfici, ut dictum est.

また、これ以上には不完全化されえない。なぜなら、すでに述べたように、不完全化されえないミノル・プロツィオの不完全ブレヴィス以外残っていないからである。

Et quidquid de imperfectione est dictum de minimis respectu brevium, intelligatur de semibrevibus respectu longarum, et de brevibus respectu maximarum; et etiam quidquid dictum est de minimis respectu semibrevium, intelligatur de semibrevibus respectu brevium, et de brevibus respectu longarum, et de longis respectu maximarum.

また、不完全化に関して、ブレヴィスに対するミニマについて言われたことは何であれ、ロンガに対するセミブレヴィスについて、またマクシマに対するブレヴィスについても理解されなければならない。また、セミブレヴィスに対するミニマにういて言われたことは何であれ、ブレヴィスに対するセミブレヴィスについて、ロンガに対するブレヴィスについて、マクシマに対するロンガについても理解されなければならない。

Unde sicut est dare brevem imperfectam valentem duas semibreves valentes quatuor minimas, sic est dare longam imperfectam valentem duas breves valentes quatuor semibreves, et maximam imperfectam valentem imperfectam, valentem quatuor breves.

このことから、不完全ブレヴィスの音価を与えることは、ちょうど四つのミニマの音価の二つのセミブレヴィスと同じであり、不完全ロンガの音価を与えることは四つのセミブレヴィスの音価の二つのブレヴィスとちょうど同じであり、不完全マクシマを与えることは四つのブレヴィスの音価の二つのロンガと同じである。

Sicut est dare brevem imperfectam valentem duas semibreves, valentes sex minimas, sic est dare longam imperfectam, valentem duas breves, valentes sex semibreves, et maximam imperfectam, valentem duas longas, valentes sex breves.

不完全ブレヴィスの音価を与えることは、ちょうど六つのミニマの音価の二つのセミブレヴィスと同じであり、不完全ロンガの音価を与えることは六つのセミブレヴィスの音価の二つのブレヴィスとちょうど同じであり、不完全マクシマを与えることは六つのブレヴィスの音価の二つのロンガと同じである。

Et sicut est dare brevem perfectam valentem tres semibreves, valentes sex minimas, sic est dare longam perfectam valentem tres breves, valentes sex semibreves, et maximam perfectam valentem tres longas valentes sex breves.

完全ブレヴィスの音価を与えることは、ちょうど六つのミニマの音価の三つのセミブレヴィスと同じであり、完全ロンガの音価を与えることは六つのセミブレヴィスの音価の三つのブレヴィスとちょうど同じであり、完全マクシマを与えることは六つのブレヴィスの音価の三つのロンガと同じである。

Et sicut est dare brevem perfectam valentem tres semibreves, valentes novem minimas, sic est dare longam perfectam valentem tres breves, valentes novem semibreves, et maximam perfectam valentem tres longas, valentes novem breves.

完全ブレヴィスの音価を与えることは、ちょうど九つのミニマの音価の三つのセミブレヴィスと同じであり、完全ロンガの音価を与えることは九つのセミブレヴィスの音価の三つのブレヴィスとちょうど同じであり、完全マクシマを与えることは九つのブレヴィスの音価の三つのロンガと同じである。

Ex quibus supradictis sufficienter habetur quomodo maxime et longe possint imperfici. Tunc videantur exempla que sequuntur.

上述のことから、マクシマやロンガがいかにして不完全化されうるのかが十分に理解されたことと思う。というわけで以下の諸例を見られたい。

Et sic de longis imperfectis modo et tempore, et de majori prolatione, ut hic:
[f010617]*1

不完全モドゥス不完全テンプスでマヨル・プロラツィオのロンガについては、次のようである:
[f010617]*1
[m010617]

註:
*1 譜例
ここの譜例は最も正確と思われる[Venice]のものを用いました。 [Back]

Item de longis imperfectis modo, sed perfectis tempore, ut hic:
[f010618]*1

同様に、不完全モドゥスだが完全テンプスのロンガは次のよう:
[f010618]*1
[m010618]

註:
*1 譜例
ここの譜例も[Venice]のものを用いました。 [Back]

Item de longis perfectis modo, sed imperfectis tempore, ut hic:
[f010619]*1

同様に、完全モドゥスだが不完全テンプスのロンガは次のよう:
[f010619]*1
[m010619]

註:
*1 譜例
ここの譜例も[Venice]のものを用いました。 [Back]

Item de longis perfectis*1 modo et tempore, ut hic:
[f010620]*2

同様に、完全モドゥス完全テンプスのロンガは、次のよう:
[f010620]*2
[m010620]

註:
*1 perfectis
[Coussmaker]ではこの perfectis が無いのですが、[Florence], [Venice]にはこれがあり、その方が意味が通るので付加しました。 [Back]
*2 譜例
ここの譜例も[Venice]のものを用いました。 [Back]

Sequuntur exempla quomodo maxima possit imperfici. Et primo de maximis imperfectis quarum longe sunt perfecte, ut hic:
[f010621]*1

以下はマクシマがいかにして不完全化されうるのかの例である。第一は、ロンガたちが完全である不完全マクシマの例である。
[f010621]*1
[m010621]*2

註:
*1 譜例
ここの譜例は最も正確と思われる[Venice]のものを用いました。 [Back]
*2 譜例(現代譜)
これ以降のマクシマの例の現代譜は再びスケーリングを一つずらして、ロンガに一小節が対応するようにしています。[Back]

Item de maximis perfectis quarum longe sunt imperfecte, ut hic:
[f010622]*1

同様に、ロンガたちが不完全な完全マクシマは、次のよう:
[f010622]*1
[m010622]

註:
*1 譜例
ここの譜例はどの資料のものも不可解なので修正を施したものを使用しています。 [Back]

Item de maximis perfectis quarum longe sunt etiam perfecte,*1 ut hic:
[f010623]*2
Et predicta de imperfectione notarum sufficiant.

同様に、マクシマが完全でそのロンガもまた完全なものは次のよう:
[f010623]*2
[m010623]
以上で音符の不完全化については十分である。

註:
*1 perfecte
[Coussmaker]では imperfecte がとなっていますが、[Florence], [Venice]では perfecte となっていて、その方が意味が通るので修正しました。 [Back]
*2 譜例
ここの譜例は、最も正確と思われる[Venice]のものを用いました。 [Back]

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Last modified: 2006/9/7