ヨハネス・デ・ムリス著『計量音楽の書』論考二、三

●論考二 Tractatus Secundus

Capitulum primum: De alteratione in musica.

第一章:音楽におけるアルテラツィオについて

Alteratio in musica est proprii valoris secundum note formam duplicatio, de qua tales dantur regule:

音楽におけるアルテラツィオ(アルテラ化)は、音符の形態に応じた、個々の音価の二倍化であり、以下のような規則たちがあたえられる。

Prima regula est quod nulla nota potest alterari ante sibi similem, nec ante minorem*1 se.

第一の規則は、どんな音符もそれ自身と同じものの前では、またより小さい音符の前では、アルテラ化できないということである。

註:
*1 ante minorem
[Coussmaker]では ante majorem となっていますが、これでは意味がおかしいので他の資料にならい ante minorem に直しました。 [Back]

Secunda regula est, quod omnis nota potest alterari ante proximam majorem se, sicut minima ante semibrevem, vel ante pausam semibrevis, brevis ante longam vel ante pausam longe, longa ante maximam, et non aliter.

第2の規則は、全ての音符はそれより一段階大きな音符の前でアルテラ化できるということである。 すなわち、セミブレヴィスまたはセミブレヴィスの休符の前のミニマ、ロンガまたはロンガの休符の前のブレヴィス、マクシマの前のロンガ、そしてこの他はない。

Tertia regula est quod quandocunque inter duas longas de modo perfecto vel pausas longarum vel inter punctum et longam inveniuntur due breves sine puncto in medio, secunda alteratur, id est valet duas breves.

第3の規則は、完全モドゥスにおいて、二つのロンガ、あるいはロンガの休符、あるいはプンクトゥスとロンガの間に、二つのブレヴィスが、その間にプンクトゥスを置かずに、見出されるときはいつでも、二番目(のブレヴィス)はアルテラ化される。 それはブレヴィス二つ分である。

Similiter, quando inveniuntur due semibreves inter duas breves de tempore perfecto, vel inter punctum et brevem vel inter pausas brevium, secunda alteratur, id est valet duas semibreves.

同様に、完全テンプスにおいて、二つのブレヴィスの間、あるいはプンクトゥスとブレヴィスの間、あるいはブレヴィスの休符の間に、二つのセミブレヴィスが見出されるときには、二番目(のセミブレヴィス)はアルテラ化される。 それはセミブレヴィス二つ分である。

Idem est de duabus minimis inter duas semibreves de majori prolatione. Nam quandocunque remanent due sine puncto in medio, secunda est alterata.

マヨル・プロラツィオにおける二つのセミブレヴィスの間の二つのミニマについても同様である。というのは、間にプンクトゥスがない二つのものがあるときはいつでも、二番目がアルテラ化されるからである。

Et est notandam quod nota alterata potest imperfici a parte ante; exempla de omnibus, ut hic:
[f020101]*1

アルテラ化された音符は先行部分において不完全化されうる。 全ての例は次のようである:
[f020101]*1
[m020101]*2

註:
*1 譜例
以下の譜例は、どの資料のものも不可解なところがあるので、意味が通るように独自に修正したものを用いています。 [Back]
*2 譜例(現代譜)
これはスケーリングをずらして、ロンガが一小節に対応する対応で書いています。 [Back]

[f020102]
[m020102]

[f020103]
[m020103]

[f020104]
[m020104]*1

註:
*1 譜例(現代譜)
これもスケーリングをずらして、ロンガが一小節に対応する対応で書いています。 [Back]

[f020105]*1

註:
*1 譜例
これは、これ単独ではちょっと不可解な例です。もしかしたら互いに、そして前後につながっているのかもしれません。そういうわけなので無理に現代譜を作らないことにします。 [Back]

[f020106]
[m020106]*1

註:
*1 譜例(現代譜)
これもスケーリングをずらして、ロンガが一小節に対応する対応で書いています。前半はアルテラ化した音符が不完全化する例ですね。 [Back]

[f020107]
[m020107]*1

註:
*1 譜例(現代譜)
後半のミニマのあとのプンクトゥスが理解しにくいです。こういうプンクトゥス・ディヴィジオニスの用法があるのかわかりません。なので現代譜の、完全テンプス兼不完全プロラツィオという解釈が正しいのかどうかはわかりません。 [Back]

Capitulum secundum: De duplici minima.

第二章:二通りのミニマ

Nota quod duplex est minima, semibrevis, brevis et longa, scilicet recta et altera. Recta quando simpliciter ponitur pro valore sui, altera quando pro duplici.

ミニマ、セミブレヴィス、ブレヴィスそしてロンガは二通り、すなわちレクタとアルテラがあることに注意せよ。単にそれの音価で置かれるときレクタ、二倍のときアルテラである。

Capitulum tertium: De causa alterationis alicujus note.

第三章:ある音符のアルテラ化の原因について

Item nota quod quando aliqua nota alteratur, hoc fit causa perfectionis, scilicet ut perfectio compleatur. Unde brevis alteratur ad perficiendum modum, semibrevis ad perficendum tempus, et minima ad perficiendum prolationem. Hec de alteratione sufficiant.

同様に、ある音符がアルテラ化されるとき、これは「完全」の原因となる。たしかに、(一つの)「完全」が完成されるためである。 このことから、完全モドゥスにおいて、ブレヴィスはアルテラ化する。 完全テンプスでセミブレヴィスが、完全プロラツィオでミニマがアルテラ化する。 これでアルテラツィオについては十分である。

●論考三 Tractatus Tertius

Capitulum primum: De puncto.

第一章:プンクトゥスについて

Duplex est punctus, scilicet perfectionis et divisionis.

プンクトゥスには二通りある、すなわち、ペルフェクツィオニス(完全化点)とディヴィジオニス(分割点)である。

Punctus perfectionis perficit longam in*1 utroque modo, brevem in utroque tempore, semibrevem in utraque prolatione.

プンクトゥス・ペルフェクツィオニスは、両方のモドゥスにおいてロンガを、両方のテンプスにおいてブレヴィスを、両方のプロラツィオにおいてセミブレヴィスを完全化する。

註:
*1 in
[Coussmaker]にはこの in が抜けていたので補いました。(他の資料にはあります。) [Back]

Punctus divisionis imperficit longam dividendo breves, et imperficit brevem dividendo semibreves et imperficit semibrevem dividendo minimas.

プンクトゥス・ディヴィジオニスは、ブレヴィスたちを分離することによりロンガを不完全化し、セミブレヴィスたちを分離することによりブレヴィスを不完全化し、ミニマたちを分離することによりセミブレヴィスを不完全化する。

Unde videndum est, per quod vel quomodo cognoscatur punctus perfectionis a puncto divisionis, cum unus habeat perficere figuras et alius imperficere, ut dictum est.

今述べたように、一方はフィグラたちを完全化し、もう一方は不完全化するので、何によって、あるいはどのようにしてプンクトゥス・ペルフェクツィオーニスとプンクトゥス・デヴィジオニスを見わけるかが理解されるべきである。

Quando punctus ponitur post longam perfectionis esse dicitur.

プンクトゥスがロンガの後に置かれるとき、ペルフェクツィオニスであると言われる。

Quando vero immediate post minimam divisionis esse dicitur. Et triplex est divisio, scilicet modi, temporis, et prolationis.

ミニマの直後に置かれるときディヴィジオニスであると言われる。そして、ディヴィジオには三通りある、すなわち、モドゥスの、テンプスの、またプロラツィオの(ディヴィジオ)。

Item nota quod si punctus ponatur inter duas breves, dividit modum, nisi forte breves ille forent de tempore imperfecto, post quas vel ante quas reperitur aliqua semibrevis sola que per sincopam reduceretur ad dictam brevem, puncto perfectionis punctatam.*1

また、二つのブレヴィスの間にプンクトゥスが置かれるならば、モドゥスを分割することに注意せよ。仮に、たまたま、それらブレヴィスが不完全テンプスのものであって、それらの前、あるいは後ろにもうひとつ単独のセミブレヴィスが見出され、それがシンコーパを通じて、プンクトゥス・ペルフェクツィオニスによって点を打たれた件のブレヴィスにおいて、還元されないかぎり*1

註:
*1 nisi...punctatam / 仮に...還元されないかぎり。
これは次のようなシンコペーションについて言っています。
[f030107]
[m030107]
なお、「還元される」reduceretur という用語については論考七のシンコーパ(シンコペーション)のところで説明されます。 [Back]

Si autem punctus ponatur inter duas semibreves, pro divisione temporis assignatur, nisi forte semibreves essent de minori prolatione, post quas vel ante quas inveniretur aliqua minima sola que per sincopam reduceretur ad dictam semibrevem puncto perfectionis punctatam.*1

一方、もし二つのセミブレヴィスの間に、プンクトゥスが置かれているならば、テンプスの分割として与えられる。仮に、たまたま、セミブレヴィスたちがミノル・プロラツィオのものであって、それらの前、あるいは後ろにもうひとつ単独のミニマが見出され、それがシンコーパを通じて、プンクトゥス・ペルフェクツィオニスによって点を打たれた件のセミブレヴィスにおいて、還元されないかぎり*1

註:
*1 nisi...punctatam / 仮に...還元されないかぎり。
これは次のようなシンコペーションについて言っています。
[f030108]
[m030108] [Back]

Et hec de puncto sufficiant studere vobis*1. Exempla de predictis punctis:
[f030101]*2

プンクトゥスについて学ぶのはこれで十分であろう。前述のプンクトゥスの例は以下である:
[f030101]*2

註:
*1 vobis
他の資料では volentibus になっているのですが、そうだと私は意味を解しかねるのでそのままにしました。 [Back]
*2 譜例
この譜例は、どの資料のものも不可解なので[Coussmaker]のものをそのまま用い、現代譜は付けませんでした。 [Back]

[f030102]
[m030102]

[f030103]
[m030103]

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Last modified: 2006/9/19