フランコ式記譜法の解説4

実際の曲の例 Part 2

3. Favellandi vicium

同じく Roman de Fauvel から、Favellandi vicium という2声の曲です。

fauvel3 fauvel3

この曲では、全体が B-L-B-L... という第二モードのリズムに乗った曲です。この曲では、2.Mundus mundicia で登場した形のコンジュンクトラConjuncturaのほかに、もう一つ別のコンジュンクトラConjuncturaが登場します。

これは、いわば "ロンガのコンジュンクトラ" (そんな用語は無いですが)と呼んでもいいように思われるもので、ここでは S-S-L のようなリズムを表すものとみなしたいと思います。

Conjunctura = S-S-L = triple12n2

さて、まうかめ堂の作成した現代譜と MIDI は次のようです。

ここでも、セミブレヴィスに関してはフランコの規則通りに三分割でやりましたが、この曲も二分割の方が良いかもしれません。

4. Super cathedram/Presidentes/Ruina

最後の曲は、同じく Roman de Fauvel から、Super cathedram/Presidentes/Ruina という3声のモテトです。

fauvel3 fauvel3 fauvel3 fauvel3

ちょっと長い曲で、画像が四枚にもなってしまいましたが、最初の三枚がトリプルムの声部、四枚目の下から二段目までがドゥプルム(モテトゥス)の声部、四枚目の一番下の段がテノールです。

まず、そのテノールですが、この一段を二回繰り返します。

最後に書かれた Iterum というラテン語は、「もう一度」という意味の副詞です。

テノールに出てくるリガトゥラで、これまでに無かったタイプのものが登場します。例えば lig で、これは最後の音符が二重ロンガを表します。したがって、このリガトゥラは L-B-B-DL となります。(DL は二重ロンガを表します。)

このように、二重ロンガがリガトゥラの最後に現れたり、あるいはリガトゥラの途中でも下向きの棒の付けられた音符が現れて、それが(リガトゥラの途中であるにもかかわらず)ロンガを表す、という用法は、これ以後一般的な規則として定着していくことになります。

一方、上2声の記譜で注意しておきたいのは、アルテラ・ブレヴィスのプリカが現れることです。もちろん、これは記号としては普通のブレヴィス・プリカと同じですが、リズムの解釈で少し悩みます。ここでは、不完全ロンガのプリカのように、本体も装飾音もテンプス一つづつという風に理解しておきたいと思います。

例えば、ドゥプルムの冒頭部分は次のようになります。(seculi の cu のところがアルテラ・ブレヴィスのプリカです。)

Presidentes =
Presidentes

この曲は、楽譜を作るのはちょっと大変なので MIDI のみ作りました。

この曲では、セミブレヴィスに関してはフランコの規則通りの三分割が正しそうです。また、曲全体は L-B-B-L の第三モードの上に作られています。トリプルムの細かい動きといい、ドゥプルムにC#が現れる和声といい、だいぶアルス・ノヴァが近付いてきた感じのするモテトですね。


Last modified: 2005/11/29